◆和紙情報
各地の和紙を次世代につなぐため
特集 「技術継承を目指す地域おこし協力隊の活動『山口徳地手漉き和紙』編」
徳地和紙の船瀬さん、和紙作りと格闘しながらの1年、生活状況も大きく変わったことと思います。様々な新しいできごとや出会い、そして発見や失敗、感動もあり、疲れ果ててバタン休ということもあるでしょう。特集の2回目は船瀬さんが体験してきた和紙作りを彼女の目線で伝えていただきます。また、お世話になっている「千々松和紙工房」の製品やそれを入手できる所も最後に紹介します。
特集3回目は、秋(10月)の予定ですが、作業状況によって月が変わるかもしれませんのでご了承下さい。
全国の歴史的和紙産地には同じような状況があると思います。舟から簀で紙料を汲み上げ一枚の紙になる所は和紙作りの最も魅力的な場面で、見る人は感激しますが、その一瞬を作り出すまでに様々な苦労があることがかくれています。それらをきちんと見て応援していきたいものです(HP担当日野)
「徳地和紙紹介と協力隊参加」その2
山口市地域おこし協力隊 船瀬春香
徳地手漉き和紙
山口市徳地島地にある「千々松和紙工房」では、山口市指定無形文化財徳地手漉き和紙保持者である千々松哲也氏が、「白保紙」(しらほし)という極薄の楮の和紙を始め、障子紙、半紙、名刺、ハガキ、便箋、封筒、短冊、色紙、色染め紙、和綴じノートなどを作っている。
千々松哲也氏はこの道60年で、原料の処理から紙の加工、簾桁の修理、和紙漉き体験の指導まで行う「和紙マスター」。自分は現在、哲也氏のご指導の下、長男の友之氏(自分と同じく地域おこし協力隊)と共に、和紙づくりの練習をさせて頂いている。 1
生活に密着した和紙づくり
千々松和紙工房での和紙づくりは、生活に密着している。今の時期(7月上旬)、畑にはトロロアオイが若葉を広げ、三椏と楮の苗も育ち始めている。庭にある大きな水槽には山水が絶え間なく流れ、裏山には道具に使う竹や和紙にすき込む紅葉が茂る。
千々松哲也氏は、畑に出てトロロアオイの間引きをしたり、白皮のキズ取りをしたり、商品の加工や包装をしたりと、こまめに幅広く作業をされる。自分はつい、いろいろなことを「決めた日に一気にやろう」などと思いがちなのだが、まさに今日、「間引きは一日でやれることじゃないんじゃから」と仰ったのを聞いて、和紙づくりは自分の都合でなく、原料の都合で進めるものだという認識を新たにした。
楮の障子紙(未晒し)を作る工程を紹介しよう。
(※写真は年間を通じて撮ったもの)
<原料の煮熟>
楮の白皮を水に浸けて一昼夜ほど置いておく。かまどに薪をくべて火を起こし、大釜でお湯を沸かす。自分で薪割りもするが、未だにへっぴり腰で空振りする。薪のくべ方は少しコツを掴んだが、火起しが下手で、特に湿気のある日は悪戦苦闘。目を離すと火が消えてしまったり、薪が弾けて破片が飛んできたりするので、うっかり者の自分は、「しまった!」「危なかった!」と小さく叫びながら作業している。
一時間ほど薪を焚いてお湯が沸いたら、原料の状態(皮の堅さや保存期間の長さ等)に合わせて重量の2割前後のソーダ灰を入れてから楮を投入。途中で上下を返しながら数時間煮熟し、白皮が手で簡単にちぎれるほどの柔らかさになったことを確認したら、釜から上げて流水で二日ほどあく抜きする。
<チリより>
あくが抜けたら、白皮に残った外皮や傷、汚れなどを取り除く「ちりより」を行う。この作業を初めてやった時は、あまりに手間がかかるので途方にくれてしまった。丸一日かけて、指の皮がふやけてブヨブヨになっても一向に終わらず、めまいがしたほどだ。チリ一つない未晒し紙を見ると、その根気に圧倒され拍手を送りたくなる。
チリよりを終えた原料は叩解機(ホーランダービーター)に移して、繊維がバラバラになるまで叩解する。この時、叩解が足りなくてもいけないし、叩解しすぎてもいけない。ちょうど良い状態で機械を止めなければならないのだが、その見極めが非常に難しい。 5
<トロロアオイ>
紙漉きに欠かせない「ノリ(ネリ)」はトロロアオイを使う。根を洗って木槌で叩き、水に浸けておく。この摩訶不思議な植物を初めて叩いた時は衝撃を受けた。叩き潰した直後から粘液が出てきて、まるで「映画に出てくるエイリアンのよだれ!」。粘りは強力で、根から出た液を漉し布から絞り出すのに一苦労する。
<漉き舟の準備>
あらかじめ、漉き舟に水を張って簾桁を水に浸しておく。紙床(漉いた紙を置く台)に定規(簾を紙床の定位置に置けるようにするための支え)をセットし、紙床に水をかけて湿らせておく。
舟に叩解した楮を入れてよく混ぜてから、トロロアオイの粘液を漉し布で絞って入れてよく混ぜる。トロミのついた大量の水を竹の棒でかき混ぜるので、全身を使う。初めの頃は毎日筋肉痛になった。 トロロアオイの粘り気は水温によって変わるため、適切な量を見極めて配合するのが難しい。千々松哲也氏は迷いなく原料とトロロアオイの分量を指示してくださるが、自分でやる時は、配合に迷って時間ばかりかかる。時間が経つほどトロロアオイの効き目が薄まるため、また絞り出して追加投入してかき混ぜることになり、紙を漉く前にヘトヘトになってしまう有様だ。
<紙漉き>
千々松氏は「波漉き」で紙を漉く。その手際良さ、リズム、水が整然と簾桁の上を走る様子は美しく、無駄がない。繊維が均一に積み重なり、きめ細かくチリの無い紙に仕上がる。 自分でやってみると、全くできない。一連の動作がぎこちなく、水はあちこちに飛び、こぼれ、簾の上に積み重なった繊維に波(シワ)が入り、ムラができる。特に簾桁に汲み上げる水の量と揺らし方が少ないと、繊維だけでなくチリも一緒に繊維の層に入ってしまうため、手早くタイミング良く適切な強弱をつけて簾桁を動かさなければならないのだが、そこが難しい。 自分の不器用さと飲み込みの悪さにもどかしい思いがこみ上げてくるが、「次こそ!」と意気込むと体がこわばって更に失敗するので、「焦らない、焦らない」と言い聞かせている。
<圧搾>
漉き終えたら、一晩、自然に脱水させてから、紙床を圧搾台に移して重石を乗せ、30分ごとくらいにジャッキをかけて徐々に水を絞る。 一度、B4サイズくらいの小さな紙を漉いて、自然脱水が不十分なままジャッキをかけてしまい、紙床をグシャっと潰してしまったことがある。障子紙サイズだったらと思うとゾッとする思い出だ。
<乾燥>
紙床に強くジャッキをかけても、水が出なくなるくらい圧搾したら、乾燥工程に移る。 ステンレスの乾燥機を60度前後に温めて、刷毛で紙を張り付ける。この時に、紙の湿り気が丁度良いと、一枚一枚が紙床から剥がれやすく、作業がしやすい。自分の漉いた紙は、そもそも厚みにムラがあり、端もヨレているから剥がしづらい。ムラによって乾燥も均一に進まず、端がひきつってしまったりシワが入ってしまったりする。また、漉いた時に「ノリ(トロロアオイ)」が不足していたり、簾桁の揺らし方が弱すぎたりすると、紙床で上下の紙とくっついてしまうことがある。今の自分は不良品を量産している状態だ。
以上が大まかな流れだが、和紙づくりをしていて思い知らされるのは、全ての工程は繋がっていて、どこかで過不足があると、後の工程全てに影響してしまうということだ。原料の状態を工程ごとに観察して、最適な薬品量や煮熟時間、叩解時間、原料とノリ(トロロアオイ)の配合量を見極めること、圧搾した紙床の状態を見て、適度な湿り気を見極めること等、まだまだできていない。先は長い…!
工房と徳地和紙取扱所
千々松和紙工房 山口県山口市徳地島地613-1
千々松和紙工房の製品は、以下の店舗でも購入可能です。山口にお越しの際はぜひお立ち寄りください。
☆特産品・特産物加工販売所「南大門」 住所:山口市徳地堀1565-1 開館時間 9:30~18:00(月末日 9:00~12:00)年中無休(12月31日~1月2日を除く) https://www.facebook.com/徳地特産品販売所-南大門-1557377237838570/
☆徳地和紙の店「風伝」(ことづて) 住所:山口県山口市後河原152 営業日・時間:木・金・土 AM10:00-PM5:00 (第一日曜のみAM9:00-PM4:00) TEL: 090-4801-8906 (富永)
☆café KOTI 住所:山口県 山口市徳地堀1747-7 http://cafekoti.com/
2016年7月13日 | トピック:協力隊