7月2016

◆和紙情報

各地の和紙を次世代につなぐため

特集 「技術継承を目指す地域おこし協力隊の活動『山口徳地手漉き和紙』編」  

  徳地和紙の船瀬さん、和紙作りと格闘しながらの1年、生活状況も大きく変わったことと思います。様々な新しいできごとや出会い、そして発見や失敗、感動もあり、疲れ果ててバタン休ということもあるでしょう。特集の2回目は船瀬さんが体験してきた和紙作りを彼女の目線で伝えていただきます。また、お世話になっている「千々松和紙工房」の製品やそれを入手できる所も最後に紹介します。
 特集3回目は、秋(10月)の予定ですが、作業状況によって月が変わるかもしれませんのでご了承下さい。
 全国の歴史的和紙産地には同じような状況があると思います。舟から簀で紙料を汲み上げ一枚の紙になる所は和紙作りの最も魅力的な場面で、見る人は感激しますが、その一瞬を作り出すまでに様々な苦労があることがかくれています。それらをきちんと見て応援していきたいものです(HP担当日野)

 

「徳地和紙紹介と協力隊参加」その2                        

                    山口市地域おこし協力隊 船瀬春香

徳地手漉き和紙  
   山口市徳地島地にある「千々松和紙工房」では、山口市指定無形文化財徳地手漉き和紙保持者である千々松哲也氏が、「白保紙」(しらほし)という極薄の楮の和紙を始め、障子紙、半紙、名刺、ハガキ、便箋、封筒、短冊、色紙、色染め紙、和綴じノートなどを作っている。
 千々松哲也氏はこの道60年で、原料の処理から紙の加工、簾桁の修理、和紙漉き体験の指導まで行う「和紙マスター」。自分は現在、哲也氏のご指導の下、長男の友之氏(自分と同じく地域おこし協力隊)と共に、和紙づくりの練習をさせて頂いている。 1 千々松和紙工房の製品_

 

生活に密着した和紙づくり  
 千々松和紙工房での和紙づくりは、生活に密着している。今の時期(7月上旬)、畑にはトロロアオイが若葉を広げ、三椏と楮の苗も育ち始めている。庭にある大きな水槽には山水が絶え間なく流れ、裏山には道具に使う竹や和紙にすき込む紅葉が茂る。
  千々松哲也氏は、畑に出てトロロアオイの間引きをしたり、白皮のキズ取りをしたり、商品の加工や包装をしたりと、こまめに幅広く作業をされる。自分はつい、いろいろなことを「決めた日に一気にやろう」などと思いがちなのだが、まさに今日、「間引きは一日でやれることじゃないんじゃから」と仰ったのを聞いて、和紙づくりは自分の都合でなく、原料の都合で進めるものだという認識を新たにした。

G7;a!_A%@%!K_ 3 トロロアオイの苗_

 

楮の障子紙(未晒し)を作る工程を紹介しよう。
(※写真は年間を通じて撮ったもの)

<原料の煮熟>  
 楮の白皮を水に浸けて一昼夜ほど置いておく。かまどに薪をくべて火を起こし、大釜でお湯を沸かす。自分で薪割りもするが、未だにへっぴり腰で空振りする。薪のくべ方は少しコツを掴んだが、火起しが下手で、特に湿気のある日は悪戦苦闘。目を離すと火が消えてしまったり、薪が弾けて破片が飛んできたりするので、うっかり者の自分は、「しまった!」「危なかった!」と小さく叫びながら作業している。
 一時間ほど薪を焚いてお湯が沸いたら、原料の状態(皮の堅さや保存期間の長さ等)に合わせて重量の2割前後のソーダ灰を入れてから楮を投入。途中で上下を返しながら数時間煮熟し、白皮が手で簡単にちぎれるほどの柔らかさになったことを確認したら、釜から上げて流水で二日ほどあく抜きする。

 

4 煮熟釜

 

<チリより>
 あくが抜けたら、白皮に残った外皮や傷、汚れなどを取り除く「ちりより」を行う。この作業を初めてやった時は、あまりに手間がかかるので途方にくれてしまった。丸一日かけて、指の皮がふやけてブヨブヨになっても一向に終わらず、めまいがしたほどだ。チリ一つない未晒し紙を見ると、その根気に圧倒され拍手を送りたくなる。
 チリよりを終えた原料は叩解機(ホーランダービーター)に移して、繊維がバラバラになるまで叩解する。この時、叩解が足りなくてもいけないし、叩解しすぎてもいけない。ちょうど良い状態で機械を止めなければならないのだが、その見極めが非常に難しい。 5 叩解機

 

トロロアオイ>
 紙漉きに欠かせない「ノリ(ネリ)」はトロロアオイを使う。根を洗って木槌で叩き、水に浸けておく。この摩訶不思議な植物を初めて叩いた時は衝撃を受けた。叩き潰した直後から粘液が出てきて、まるで「映画に出てくるエイリアンのよだれ!」。粘りは強力で、根から出た液を漉し布から絞り出すのに一苦労する。

6 トロロアオイの根

 

<漉き舟の準備>
 あらかじめ、漉き舟に水を張って簾桁を水に浸しておく。紙床(漉いた紙を置く台)に定規(簾を紙床の定位置に置けるようにするための支え)をセットし、紙床に水をかけて湿らせておく。
舟に叩解した楮を入れてよく混ぜてから、トロロアオイの粘液を漉し布で絞って入れてよく混ぜる。トロミのついた大量の水を竹の棒でかき混ぜるので、全身を使う。初めの頃は毎日筋肉痛になった。 トロロアオイの粘り気は水温によって変わるため、適切な量を見極めて配合するのが難しい。千々松哲也氏は迷いなく原料とトロロアオイの分量を指示してくださるが、自分でやる時は、配合に迷って時間ばかりかかる。時間が経つほどトロロアオイの効き目が薄まるため、また絞り出して追加投入してかき混ぜることになり、紙を漉く前にヘトヘトになってしまう有様だ。

7 漉き舟と簾桁

 

<紙漉き>
千々松氏は「波漉き」で紙を漉く。その手際良さ、リズム、水が整然と簾桁の上を走る様子は美しく、無駄がない。繊維が均一に積み重なり、きめ細かくチリの無い紙に仕上がる。 自分でやってみると、全くできない。一連の動作がぎこちなく、水はあちこちに飛び、こぼれ、簾の上に積み重なった繊維に波(シワ)が入り、ムラができる。特に簾桁に汲み上げる水の量と揺らし方が少ないと、繊維だけでなくチリも一緒に繊維の層に入ってしまうため、手早くタイミング良く適切な強弱をつけて簾桁を動かさなければならないのだが、そこが難しい。 自分の不器用さと飲み込みの悪さにもどかしい思いがこみ上げてくるが、「次こそ!」と意気込むと体がこわばって更に失敗するので、「焦らない、焦らない」と言い聞かせている。

 

<圧搾>
漉き終えたら、一晩、自然に脱水させてから、紙床を圧搾台に移して重石を乗せ、30分ごとくらいにジャッキをかけて徐々に水を絞る。 一度、B4サイズくらいの小さな紙を漉いて、自然脱水が不十分なままジャッキをかけてしまい、紙床をグシャっと潰してしまったことがある。障子紙サイズだったらと思うとゾッとする思い出だ。

<乾燥>
紙床に強くジャッキをかけても、水が出なくなるくらい圧搾したら、乾燥工程に移る。 ステンレスの乾燥機を60度前後に温めて、刷毛で紙を張り付ける。この時に、紙の湿り気が丁度良いと、一枚一枚が紙床から剥がれやすく、作業がしやすい。自分の漉いた紙は、そもそも厚みにムラがあり、端もヨレているから剥がしづらい。ムラによって乾燥も均一に進まず、端がひきつってしまったりシワが入ってしまったりする。また、漉いた時に「ノリ(トロロアオイ)」が不足していたり、簾桁の揺らし方が弱すぎたりすると、紙床で上下の紙とくっついてしまうことがある。今の自分は不良品を量産している状態だ。

以上が大まかな流れだが、和紙づくりをしていて思い知らされるのは、全ての工程は繋がっていて、どこかで過不足があると、後の工程全てに影響してしまうということだ。原料の状態を工程ごとに観察して、最適な薬品量や煮熟時間、叩解時間、原料とノリ(トロロアオイ)の配合量を見極めること、圧搾した紙床の状態を見て、適度な湿り気を見極めること等、まだまだできていない。先は長い…!

 

工房と徳地和紙取扱所

千々松和紙工房  山口県山口市徳地島地613-1 
千々松和紙工房の製品は、以下の店舗でも購入可能です。山口にお越しの際はぜひお立ち寄りください。

☆特産品・特産物加工販売所「南大門」 住所:山口市徳地堀1565-1 開館時間 9:30~18:00(月末日 9:00~12:00)年中無休(12月31日~1月2日を除く) https://www.facebook.com/徳地特産品販売所-南大門-1557377237838570/

☆徳地和紙の店「風伝」(ことづて)  住所:山口県山口市後河原152 営業日・時間:木・金・土 AM10:00-PM5:00 (第一日曜のみAM9:00-PM4:00) TEL: 090-4801-8906 (富永)

☆café KOTI 住所:山口県 山口市徳地堀1747-7  http://cafekoti.com/

◆和紙関連の新刊書籍紹介

『越前市史』資料編8「近代の越前和紙」越前 表紙画像
編集・発刊 越前市
平成28年3月20日
2,000円(税込)
A5判・並製・236頁(口絵カラー4頁)

 

 

近代越前和紙の貴重資料掲載
 越前和紙の産地である福井県越前市の五箇地区。ここでは鳥の子や奉書紙のほか、江戸時代には福井藩などの藩札も漉いていました。その高い技術は、明治初期に「太政官金札」即ち、全国初の全国通用紙幣の紙を漉くことにつながります。この後、新しい技術や機械漉きの導入などによる近代化が行なわれ、越前和紙は飛躍的に発展していきます。
 幕末から明治にかけての激動の時代を乗り越え発展してきた越前和紙。この地区に残る明治期以降の和紙関係文書を中心に資料編にまとめました。

もくじ
序               越前市長 奈良俊幸
解説「近代までの越前和紙の歴史」小林博之
一 太政官金札紙関係 81頁
  慶応4年(1868)の「金札漉立開始ニ付書付」から明治6年(1873)の「岡    
  蒸車切符ニ付上申書」まで67通の金札関連の書付などを掲載。
二 近代製紙の先駆者 22頁
  真柄武十郎経歴書・加藤覚太郎経歴書・岡本製紙業沿革・高野氏家乗抄を
  掲載
三 和紙全般と和紙組合 42頁
  五箇製紙沿革及工場製紙・越前製紙案内・印刷局貸下ロール代出金人名帳・  
  製紙振興論・越前製紙会社創立会議録・組合設立許可及登記申請控を掲載
四 和紙の販売 22頁
  第一回内国勧業博覧会出品願い・紙需要減少ニ付嘆願書など6種掲載
五 労働と福祉 8頁
  越前製紙工場年間作業時間表など4種掲載
参考資料
1 越前紙漉図説
2 今立郡製紙産額調査表

口絵カラー
1 御用札
2 太政官札
3 和紙道具
4 金札漉立方ニ付紙屋共請書
5 民部省札(五番用紙)下命数及規格書
6 金札紙試漉立ニ付達
7 三番漉立中止ニ付金借用願
8 ウィーン万国博覧会「佳作」
9 パリ万国博覧会「佳作」
10 シカゴ万国博覧会「優等賞」
11 越前國奉書紙製之図
12 手漉工場
13 ビータ及晒場

ご購入について
部数に限りがありますのでお早めにお求め下さい。
遠方からの購入も可能です。購入希望の方は、事前に下記越前市文化課にお電話で、郵送希望であることをお伝えください。1冊ご購入の場合、2000 円+ 送料(レターパック代360 円)⇒ 合計2,360 円を越前市文化課宛てに現金書留でお送りください。
特に、複数冊のご購入の方は、送料金額についてご確認下さい。

越前市文化課(武生公会堂記念館1階)
 〒915-0074 福井県越前市蓬莱町8?8 電話 0778(22)7459 FAX 0778(22)3795
受付時間:月曜から金曜の8:30から17:15まで ※祝日を除くE-mail:satou-tm@city.echizen.lg.jp

2016年和紙文化研究会月例会予定

2016会員発表予定表(エクセルデータ)
※2016/8月は休会ですので見学はできません。今年度は和紙文化講演会はありません。2017/6月は小講演会・総合討議 和紙文化パネル‐workⅣを予定しておりますが、通常の見学手続きと同じです。
※テーマは仮題です。担当がまだ決定していない場合もあります。なお、発表者・発表内容・スケジュールなど変更になる場合があります。各月のお知らせをご確認下さい。

◆産地交流

「北信濃内山和紙のふるさとを訪ねて ―水と古墳と紙の村 木島平―」
内山和紙の今昔 第3回
第三回も前回と同じく「内山和紙体験の家」のご協力をいただき、内山和紙の地元の方々が綴られた思い出の中から「紙すきの思い出」を紹介します。(wordデータになっております)

PDFデータ

 

 
なお「一部読みづらい部分や方言的言い回しなどはわかりやすいようにしていること」また、「思い違いなど事実と異なる点が含まれている可能性のあることをお含みおき下さい」ということは前回同様です。
〈資料提供:木島平村・内山和紙体験の家 http://kamisukiya.com/ 〉

月例会見学ご希望の方々へ

見学希望の方は、7月14日(木)まで、添付「Web 申し込み書」に必要事項を記入の上、下記例会委員専用アドレスへ添付してお送り下さい。
entry@washiken.sakura.ne.jp
また、HP担当の日野宛に「FAX申し込み書」(03-3759-7103)でお申し込み下さい。見学詳細はこちらからご連絡いたしますので、必ずご連絡先を明記して下さい。もし明記がない場合は受付できません。なお、当日見学代として1,000円ご用意下さい。また、見学者が多い場合はお断りすることもありますので、お早めにお申し込み下さい

FAX 申し込み書<Wordファイルです>

 

◆ 7月例会
  日 時:7 月16 日(土)13:30 ~17:00   
  会 場:小津和紙本社ビル 6階会議室
  13:00 ~ 13:30 フリートーク
            ※会員相互の情報交換の時間としてご利用ください。
  13:30 ~ 14:40 2016年度 第1 回宍倉ゼミ宍倉佐敏 会員(下記参照)
  14:40 ~ 14:50 休憩 
  14:50 ~ 16:30 会員発表 佐々木紫乃 会員(次頁参照)
  16:30 ~ 16:45 事務連絡
  16:45 ~ 17:00 片付け・退出
 

2016年度 第1 回 宍倉ゼミ                    
題 名「 和紙の歴史 古代の和紙   その1」        
               女子美術大学特別招聘教授 宍倉佐敏 会員
■紙の発明
漂絮(ひょうじょ)という作業をした女性たちに因って、紙の原形が作られた。これをヒントに繊維の短小化や漉き具の改良が行われ、近年になり前漢時代の遺跡から紙状物が発見された。
「後漢書」に記述された紙の発明者とされる蔡倫の功績はなんであったか? 蔡倫が作った蔡候紙は書写性が優れた紙であった。その製法や原材料について考察する。
■日本への伝来と古代の紙
紙の製法は朝鮮半島を経由して伝わった、その製法は定かでないが、延長五年(927)に制定された延喜式に記述された古代紙の製造工程を紹介し、書写材として貴重な紙の表面平滑性を向上させる打紙処理法を解説する。

 

会員発表                  PC・プロジェクター使用
題 名「 和紙でつくろう!簡易帙」        
              国立国会図書館 資料保存課 佐々木紫乃 会員

 帙(ちつ)とは書物を保護するための包みです。
 一般的な帙は、厚紙を芯にして布を貼って作製しますが、技術と費用を要するため、誰にでもすぐに作れるものではありません。そのため、「保護 したい資料はあるけど、帙を作るのは難しい...」と思っている方は多いのではないでしょうか。そこで、今月の例会では保護が必要な書物に対し、誰でも簡単に作成できる「簡易帙(かんいちつ)」のワークショップを行います。紙とハサミと紐があれば大丈夫。
 今回は和紙研ということもあり、和紙で作成します。
 
【参考】国立国会図書館 
資料保存研修実習テキスト 4.「簡易帙をつくる(PDF:397KB)」
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/coop/training_forum.html

誰でも思う以上に簡単にできます。本は洋本でも和本でも大丈夫です。
ワークショップに参加してみたいという会員は各自、単行本サイズからA5 版サイズまでの本1 冊とハサミ、筆記具を必ずご持参ください。見学希望の方も参加できますので、本とハサミと筆記用具をお忘れなく。

※会員・見学者どちらも、お忘れの場合は、ワークショップにご参加いただけない場合がございます。ご了承ください。

 

1 長方形の手漉き和紙をこの形に切って折込む

1 (1)
2 本を置いた状態

2 (1)
3 上、下、左、右と折って行く

3
4 ひもを結んで出来上がり

4

5
5 大きさも色々です

!9$JBg$-$5

 

予告
この和紙の簡易帙は、手軽さ・安価・保存性・様々な形に対応など利点がたくさんあります、これは手漉き和紙の用途や需要にもつながる可能性がありますので、特集を組んでご紹介いたします。

小津和紙ご案内200